Opinion

以下の文章は、毎日新聞大阪本社版「暮らしっく」内「住まいの望遠鏡」コラム(2005年3月27日〜6月12日)に掲載されたものです。YURI DESIGNの住宅、環境、屋根緑化などについて考えが反映されています。是非ご一読ください。

 

①シックハウス症候群

新築やリフォームの後に、体調が悪くなった、頭痛や鼻水など、アレルギー症状が出た、ということを経験したことはありませんか?住宅や建物に起因するこれらの症状をシックハウス症候群といい、化学物質過敏症のひとつです。
家とは本来、暑さ寒さや雨などの自然環境から、人間を守るためにつくられるものです。ところが、その家が、人の健康を蝕んでいる、という事実が明らかになってきました。戦後にわかに発達した石油化学製品によって、安くて便利な新建材がたくさん使われるようになりました。接着材を使った合板のフローリングや、ビニールクロス、防虫処理をされた畳、溶剤を含むペンキなど、今の多くの建物は石油化学製品であふれています。建材ばかりではありません。衣類の防虫剤、プラスチック製品、芳香剤など、家の中の空気はさまざまな化学物質で、これらが、人間にアレルギー症状を引き起こすのです。人類の歴史をたどると、ホモサピエンスの登場が今から約20万年前。農耕が始まり定住しだすのが1万年前。その間人は地表にある土や植物、石などを使って家を作ってきました。ところがたった50年の間に身の回りは石油化学製品だらけになってしまったのです。シックハウス症候群は、急激に人の環境が変わったことへのDNAの拒否反応ともいえます。ですから最も効果的な対策は、身の回りを少し昔に戻してあげること。接着剤や石油化学製品を使わない、木や土、石などの素朴な建材に戻してあげることです。

 

②自然素材を使った住宅

私が住宅を設計するとき、一番大事にしたいこと、それは、心からリラックスできるという空間づくりです。外へでれば、たくさんのストレスがある現代、家で一晩休めば、蘇生して、心を開放でき、明日また元気になれ空間。そのために大切なのは自然の光や風の取り入れ方、動線、そして素材です。
特に素材についてお話しますと、たとえば私の設計したある家は、杉の柱、楢の床板、土塗りの壁で、階段の手すりなどは竹でできています。接着剤や塗料など石油化学製品を使わず、できるだけ自然な素材にこだわってつくられた空間は、シックハウス症候群になりにくいばかりか、大変リラックスできます。光や手触りが優しく、癒しの空間になるのです。思わず触りたくなり、長居をしたくなります。
工場で製造される均質な製品ではなく、地表から集めたものを人の手によってしつらえる、そこにはある種のむらが残ります。自然の木には、きちんと並んだ節や木目はありません。土壁の色も混ぜる土の色によって微妙に変化します。左官職人の手のあとも残ります。そのように自然な素材で作られたむらが生む光のゆらぎや手触りが、心をリラックスさせるのだと思います。均質でないこと、これが自然界のリズムです。
住宅だけでなく、医療施設、幼稚園・保育所、学校などの生活空間も自然な素材だと本当にストレスが少なくなると思います。

 

③環境共生型のライフスタイル

今、いろいろな広告で「環境にやさしい」とか「エコ」とかよく目にするようになりました。
リサイクルできるとよいのでしょうか?ランニングコストが安いとよいのでしょうか?
ひとつ、とても素晴らしいものさしを御紹介します。
「ライフサイクルエネルギー」です。ライフサイクルエネルギーとは、ものを構成する、材料の生産・輸送エネルギー、加工に要するエネルギー、組み立てに要するエネルギー、出来上がって使用中のランニングエネルギー、いよいよ解体するときのエネルギー、廃棄物を無害にするまでのエネルギーの合計を言います。これが少ないとよりエコロジカルといえます。一面だけを見ないで、判断することが大切です。
もうひとつ、大切なことは「植物との共存」です。植物は唯一、地球外のエネルギーである太陽光を、利用できるエネルギーに変えることができる光合成をし、空気中の二酸化炭素を固定します。地球温暖化を促進してしまう空気中の二酸化炭素の量、これを減らせるのは植物しかありません。また植物の育つスピードに合わせて、建物を建てると、持続する社会になりうるのです。家の周りの土を舗装しないで、ささやかな緑の場所を確保するだけでもそれは環境に優しい暮らしの第1歩になります。

 

④バリアフリー住宅

「バリアフリー住宅」をひとことで言うと、誰でもができるだけ自立して、活き活きと暮らせる家、です。
光や風が十分にはいる、心地よい生活の場の確保により、個人の居場所ができます。
次に使いやすいトイレを、寝室の近くに設けること。排泄の自立はとても大切です。
一人寂しくベッドの上で食事をするのではなく、できるだけ皆と一緒に食事が楽しめるように、平面的につながっているほうが良いのです。人が集まりやすい家を作れば、パーティーを楽しめ豊かな時間を持つことができます。
キッチンも、壁に向かうのではなく、家族の様子が見える、明るいほうを向いていれば、自然と楽しい気分になり、体も動かしやすくなります。また、いすに腰掛けて使えると便利です。
リビングルームの床と、併設した和室の畳の高さを変えないのも良く見かけますが、あえて、畳を床から30センチほど高くするのも使いやすいです。和室の畳や縁に座ったとき、いすに座っている人と目線が同じような高さになるのです。視線のバリアフリーですね。
つかまるところがあれば、移動しやすいときがあります。手すりであったり、しっかりした作り付けの家具であったり。扉も開きより引き戸のほうが、邪魔になりません。
良いバリアフリー計画は、健康な人にも使いやすいものです。

 

⑤明るい家庭づくり

家を一度建てたら、メンテナンスをしながら最低でも50年くらいは使って欲しい、と思っています。とはいえ10年以上先のことはなかなか想像がしにくいですし設備などリニューアルの必要なものも出てきます。家の設計に取り掛かるときの第1歩は、家族がこれから5年先、10年先、どのように暮らしてゆきたいか?ということをできるだけ明確にするということです。新婚の家庭だと、家族が増えるかも知れません。逆に子供が10代の後半でしたら、独立する日も近いかもしれません。高齢者を受け入れる可能性があるかもしれません。個人のスペースは、できるだけフレキシブルに考えることが必要です。
一方、いまや家族らしく生活をするのには意思が必要だといえます。昔のように家族総出で農作業、お商売、などという生活が少なくなってきたことと、携帯電話やパソコンの発達によって、個々が外部と直接つながることがあたりまえになっていて、家族の様子がわかりにくい時代になってきたからです。しかしせっかく縁あって一緒になった家族。家庭らしく生活するためには、個人のスペースを少なくしてでも、食卓を中心とした家族の共用部分をできるだけ広くとることが大切です。そこを日当たりが良く心地よい場所にすれば、皆が自然と集まってきます。違うことをしていても空間を共有するだけで、お互いの気配がわかる、これが大切なことではないかと思います。

 

⑥草屋根のこと

もうすぐ暑い夏がやってきます。
我が家は敷地が狭く、屋根裏にせざるを得なかった子供室の環境を改善する為に、屋根に厚さ10センチの土をおき、芝で覆いました。和歌山大学の山田宏之助教授の観測結果によると、この緑化屋根は、アスファルトシングル瓦に比べ、真夏日中の熱の侵入率が21分の1になるそうです。居住性の向上はもちろんのこと、冷暖房負荷が減るので、エネルギー消費の軽減になり、地域の環境も改善されます。おまけに、自然に四季折々の草花が芽生え花が咲き、蝶やトンボもやってきます。屋根に上がってゆっくりと星空を眺めると、流れ星を発見することもあります。大雨の時は、まず、屋根自体に保水するので公共下水へ流れるのに時間差ができ、都市型洪水も緩和できます。
草屋根つくりのヒントは北欧の伝統的な民家でしたが、ドイツでは1985年くらいから、エコロジカルな建築家たちが屋根の緑化をはじめ、今では大変ポピュラーになっています。
日本で屋根緑化はまだ始まったばかりと思われていますが、実は屋根の上に花が咲いている、といのは古くからあるのです。「芝棟」といって、茅葺屋根の雨漏り対策として、棟の上に床を作りユリなどの乾燥に強い花を植えるのです。
現代は日本中のどこでも、防水や構造など、ポイントを抑えれば、屋根緑化はそれほど難しいことではありません。快適で楽しくてしかも環境に良い、それが屋根の緑化です。